Vol.28 香りの原料である植物の産地の“見える化”を
ものづくりの背景には、作り手の感性や技術とともに、産地へのこだわりやリスペクトの想いがあります。さまざまな分野で活躍する方々に輝きの秘密をうかがいながら、サザンアフリカのダイヤモンド鉱山で採掘された原石がダイヤモンドジュエリーとなるまでの確かなプロヴェナンス(来歴)とトレーサビリティ(生産履歴)を誇るSABIRTHとの共通項を探ります。
【Vol.28 武石紗和子さん/<アットアロマ>センティングデザイナー】
オリジナルの香りをデザインし空間を表現
東京の渋谷と原宿の中間にあるアットアロマ神宮前店。店内に足を踏み入れると、柔らかで心地よい香りに癒されます。ここで迎えてくれたのが、アットアロマのセンディングデザイナ―、武石紗和子さん。
「幼い頃から“香り” に興味はありました。とはいえ東京生まれ、東京育ちということもあり、おしゃれ心が芽生える年頃になってからは自然の香りよりも、香水のような都会的なデザインの香りに惹かれていました」。
大学卒業後はIT企業に就職。
「多忙な日々の中で香りを使っていましたが、疲れたり気持ちが落ち込んだ時に欲するのは天然の植物の香りなのだと感じるようになりました。マイナスをゼロにしたり、プラスに走りすぎるのをおさえてくれたり。自然な香りは、心と身体をニュートラルにして自分らしくしてくれることに気付き、香りの世界への興味が湧いたのです」。
IT企業での仕事を続ける傍らに、趣味としてアロマセラピーの勉強を始めた中で出会ったのがアットアロマでした。
「アロマセラピーはマッサージやトリートメントなどパーソナルな場面で活用されることが多いですが、アットアロマでは“香りで空間をつくる(コーディネート)” と“香りを調香する(デザイン)”という観点から香りを学べる講座を開催していました。受講する中で、香りが空間や、ブランディング、マーケティングにまで繋がる可能性を秘めていることに奥深さを感じて、香りの世界に挑戦することを決めました」。
センティングデザイナーとは、香りの専門家として、空間を演出するための香りを調香し、空間を創り上げる仕事。パブリックな空間での香りの演出は、創業当時は導入が難しいこともありましたが、現在では、ホテルやショップ、ショールーム、医療機関などさまざまな空間で目的や用途、インテリアイメージやスタイルに合った香りをデザインし提案しています。
「最近は音楽や照明にもこだわり、五感で世界観を表現するブランドが増えていますよね。“香り”もその一つとして、オリジナルのデザインを希望されるケースが多くなっています」。
産地に出向き、素材の有効活用の可能性も探りたい
クライアントの要望をヒアリングしながら、空間を演出するためのオリジナルの香りをデザインするセンティングデザイナー。
「たとえば“爽やかな香り”と言ってもそのイメージは人によって異なるので、サンプルの香りはもちろん、言葉や色、写真などを提示してすり合わせながらブラッシュアップしていきます。香りの組み合わせは同じでもその比率や量が変われば印象が変化するので、いくつもの香りをブレンドしてクライアントのイメージに近づけていく作業はとても難しいですが、やりがいを感じています」。
取り扱うほとんどのアロマオイルは、世界中から仕入れていますが、それぞれのオイルの産地や製造についてはしっかりと確認しています。
「先日はギンバイカやウラジロモミなどの産地である福岡県久留米に伺いましたが、アットアロマでは、なるべく産地や蒸留の現場を訪れ、地元の方と交流しお話を伺うようにしています。
例えば和歌山県産のぶどう山椒や、高知産の柚子は、実を食用に収穫した後の実の軸や果汁を絞った後の皮を蒸留してアロマオイルを抽出しています。産地では考えていなかった活用方法で、地域おこしの新しい道が拓けることもあります」。
アットアロマでは日本初の蒸留装置を搭載したトラック「mobile aroma lab(モバイルアロマラボ)」でアロマオイルの花原材料となる植物の産地まで赴き、その場でオイルの蒸留をおこなう活動も。
「産地と連携しながら、未利用資源や希少原料を活用した取り組みを積極的に行っています。日本には森林が多く、スギやヒノキなど木材だけでも香りの原料となる植物がたくさんありますが、活用されていないものや、伐採された木や枝葉などがそのまま山に残っていることも多いので、新たな有効活用方法としてアロマオイルの抽出を考えていきたいですね。アロマオイルは約50㎏の原料から100〜500ml程しか抽出できない貴重なものです。林業や農業の生産者さんの想いや、実際に見てきた産地のことを伝えたり写真をお見せしたりするとお客様のイメージも広がるので、産地の“見える化”は、これからもぜひ取り組んでいきたいと思っています」。
ダイヤモンドや香りの産地にイマジネーションの旅へ
武石さんが香りの原料となる植物の産地から製造、流通に至るまでの“見える化”に可能性を見出し取り組むように、サバースもまた、サザンアフリカの鉱山で採掘されたダイヤモンドが研磨され、ジュエリーに仕立てられ、お客様のもとに届くまでの“見える化”を大切にしています。
「ダイヤモンドも香りも、身につけたり包まれたりした時に、産地のストーリーを知っていると旅をしたような気持ちになれるのも素敵なことではないでしょうか」。
香りをデザインし提案する仕事柄、クライアントのイメージを色で左右せず香りに集中できるようファッションは無彩色のものが多いという武石さん。
「ジュエリーもシンプルでナチュラルなものが好きですね。無色透明でありながら強い光を放つダイヤモンドも大好きです。最近はお客様から、どういう産地からどのようなルートでやって来たオイルなのかという質問を受けることが増えているのですが、今日は逆にサバースのダイヤモンドのサザンアフリカからのストーリーを伺えて、世界が広がりました」。
今後も、香りを通じて産地と人と結ぶ活動を続けていきたい、と夢は広がります。
「コロナ禍で家にいる時間が長い中で、気持ちを切り替えたり季節を感じるために香りを取り入れる方が増えました。今は、次のステップとして何が提案できるのかを考えています。一方で産地に出向いてお話を伺うことは私自身の勉強にもなりますし、地域の方と一緒に活性化にも取り組みたいですね。現地で蒸留したオイルは香りが生きているんです。そんな香りの体験をたくさんの方にしていただきたいですし、生産者の方々にもお伝えして創り手側にも楽しんでいただけるようになったら良いなと思っています」
サザンアフリカの乾燥した大地から力強く伸びる蔦をイメージした“ナマクワ”を中心に、ピンクゴールドとダイヤモンドでまとめたコーディネートが華やかな印象。
(左から)
バングル/Forever Star<Orbit>〈PG×ダイヤモンド〉¥2,200,000
リング / Namaqua〈PG×ダイヤモンド〉¥456,500
ネックレス/Namaqua〈PG×ダイヤモンド〉¥456,500
イヤリング/Namaqua〈PG×ダイヤモンド〉¥847,000
武石紗和子/ SAWAKO TAKEISHI
東京都出身。大学卒業後、IT企業を経て、2009年よりアットアロマ勤務。現在は空間を演出するための香りをデザインするセンティングデザイナーとして主にショップやホテルなど、空間の可能性をアクティブに、かつクリエイティブに表現する香りのデザインを担当する傍ら、広報業務にも携わる。
https://www.at-aroma.com