Vol.29 世界各地のペンと紙で文字の可能性を広げたい
ものづくりの背景には、作り手の感性や技術とともに、産地へのこだわりやリスペクトの想いがあります。さまざまな分野で活躍する方々に輝きの秘密をうかがいながら、サザンアフリカのダイヤモンド鉱山で採掘された原石がダイヤモンドジュエリーとなるまでの確かなプロヴェナンス(来歴)とトレーサビリティ(生産履歴)を誇るSABIRTHとの共通項を探ります。
【Vol.29 島野真希さん/カリグラファー】
書道からカリグラフィーへと活動を広げて
ペン先から広がるデザイン性の高いアーティスティックな文字が、書き文字の可能性をアートの領域まで高める、カリグラフィー。
島野真希さんがこの分野で活躍するまでには、いくつかの出会いがありました。
「両親が特殊印刷や製本の事業をしていたので、紙や活字など現在の私がカリグラファーとして接しているものは、幼い頃から身近にありました。5歳から書道教室に通っていたことも“文字を書くこと” への思いを高める要素になっていると思います」。
書道会の冊子に作品が掲載されたり賞を受けることで書くことにのめり込み、自信を得るようになっていった少女時代。しかし大学進学とともに興味は他の分野に向き、書と距離を置く時期が続きました。
そんな島野さんが書くことを再開したのは、大学卒業後に就職したブライダル関連の会社でのこと。
「たまたま代表の目に触れるところで文字を書く機会があり、その文字を気に入っていただいたことで、ブライダルの仕事と並行して筆を持つようになりました」。
当時手がけた、会社が経営する日本料理の店の名前はロゴになり、現在でも使用されているそう。出産を機に退職した後も会社からの依頼は続き、書くことをライフワークにしていこうと思いを固めた島野さんに、もう一つの出会いがありました。
「ウエディングの仕事でお世話になっていたアートディレクターの方に、書だけでなくカリグラフィーもやってみたらどう?とアドバイスを頂いたのです。当時、ウエディングの宛名やネームカードはごく僅かな選択肢から選ぶ形でしたが、ペーパーアイテムに合わせてさまざまな文字を提案できたら素敵なのではないかと、カリグラフィーの世界に飛び込みました」。
米国のカリグラファーに直接コンタクトを取り、子育ての合間のお昼寝中や深夜に勉強を重ねる日々。作品をSNSにアップしたところ大きな反響があり、カリグラファーとして活動していくように。雑誌のビジュアル制作やラグジュアリーブランドのペーパーツールの依頼などに加え、書籍の出版、教室の開催、国内外での展示と活動の幅は広がっていきました。
産地や作り手で変わる書き味や文字の表情
カリグラフィーで用いる特殊なペンには、書体によって何種類ものストックの中からペン先をつけ替えます。
「もともとは羽の先を削ったものにインクをつけて文字を書いていたのが時代とともに道具も発展し、それぞれの国の書体に応じて、書きやすいペン先が開発されていきました。それぞれの国の製品でペン先によってしなやかさや、表現できるライン、紙に対し筆圧をかけた時のクッション性が変わるので、アメリカ書体にはアメリカ製のペン先、イギリス書体にはイギリス製のペン先が適していると言われています。私は紙だけでなくレザーや鉱物などに文字を書くこともありますが、そんな時には硬度があり丈夫な日本製の“Gペン”を頼りにしています」。
表現したい文字によって異なる産地のペン先を使い分けると同時に、紙もまた世界中の産地のものを集め、選び分けています。
「アメリカのクレイン社のコットンペーパーは高級感があり、書いている時に感じる弾力が心地よい紙です。風合いのある耳つきの紙はアルパ社のもの。スペインのバレンシア地方で今も職人さんが一枚一枚、手仕事で仕上げています。イタリアのファブリアーノ社は750年の歴史があり、ミケランジェロがデッサンをするのにも使っていたと言われる紙。また、水彩紙で作品を書きたい時にはフランスのアルシュ社のものを使うこともあります。もちろん日本の和紙も、産地や梳き手によって文字のにじみ方、かすれ方が違うので、それも味と捉えて活用しています」。
紙という素材があってこそ成り立つ仕事だけに、ペーパーレス化が進む時代ならではの新しい取り組みにも注目しているそう。
「オランダでは使用済の洋服を粉砕して紙にする取り組みが始まっているそうです。再生してもう一度素材となった面白い紙も出てきているので、その個性を生かして文字を書くことにも取り組んでみたいですね」。
ダイヤモンドも文字も、時代を超えて輝き続けるもの
島野さんがペンや紙が発達してきたそれぞれの産地の文化や歴史に敬意を払い、その特性を作品に生かしているように、サバースもまた、サザンアフリカで採掘されたダイヤモンドの魅力を最大限に引き出し、ジュエリーに仕立て上げることに情熱を注いでいます。そして、鉱山から多くのプロフェッショナルの手を経てお客様のもとに届くまでの道のりを明確にすることにも尽力してきました。
「ペンや紙がどこの国のものであるかはこだわってきましたし、日常生活でも食品などは産地を気にかけることが多いですが、ダイヤモンドに関してはまだまだ“○○産”という表示を見かける機会は少ないように思います。私自身にも子どもが4人いるので、この先、次の世代まで受け継いでいくジュエリーであることを思うと、産地を明確にするのはとても良いことですね」。
実は島野さんにとってダイヤモンドは、仕事面でも身近な存在なのだそう。
「石を彫るときに使う道具を研ぐ時に使っています。ダイヤモンドは地球上で最も硬い物質なので、香水のボトルなどを削る際、また鉱物に文字を彫るために道具を整えるにはダイヤモンドは欠かせません」。
古代から人類はダイヤモンドの硬さに神秘的な力を感じ、愛情や絆の象徴として贈り合い、受け継いできました。
「私も最近はジュエリーを購入する時に、娘に残すことができるものを、と考えるようになりました。建築家の阿部勤さんの“正しく古いものは永遠に新しい”という言葉はカリグラフィーに携わる私にも通ずると思っているのですが、ジュエリーにも言えること。時代を超えて魅力を放ち続けることに惹かれます」。
ダイヤモンドの輝きと同様に時を重ねても色あせることのない文字の世界で、モダンカリグラフィーから、レターアートの域へ。島野真希さんの活動は、これからも続きます。
サザンアフリカに咲く花をモチーフにした2つのコレクションのジュエリーをミックスコーディネート。さらにダイヤモンドのトワ エ モワリングとエタニティリングで輝きを添えて。
(左上から時計回りに)
ペンダント/ペトロ〈Pt×ダイヤモンド〉¥528,000
リング/ワックスフラワー〈Pt×アコヤパール×ダイヤモンド〉¥434,500
リング/オレンジリバー〈Pt×ダイヤモンド〉¥1,870,000
リング/グッドホープ〈Pt×ダイヤモンド〉¥3,850,000
ペンダント/ワックスフラワー〈Pt×アコヤパール×ダイヤモンド〉¥434,500
ピアス/ワックスフラワー〈Pt×アコヤパール×ダイヤモンド〉¥693,000
島野真希/ MAKI SHIMANO
大学を卒業後、ブライダル業界でウェディングプランナーとして在籍しながら筆を持つ仕事にも携わる。結婚・出産を機にアーティストとして独立。書とモダンカリグラフィー、和洋共に作品を制作。ハイブランドの筆耕やコラボ商品の販売、教材の監修からウェディングアイテムまで法人・個人問わず幅広く手がける。著書に『モダンカリグラフィー』(小社刊)、『筆ペンではじめるモダンカリグラフィー』(世界文化社)他。
https://www.mscalligraphy.com/