Vol.7 服を通して自然の色と繋がる幸せを届けたい
ものづくりの背景には、作り手の感性や技術とともに、産地へのこだわりやリスペクトの想いがあります。
さまざまな分野で活躍する方々に輝きの秘密をうかがいながら、サザンアフリカのダイヤモンド鉱山で採掘された原石がダイヤモンドジュエリーとなるまでの確かなプロヴェナンス(来歴)とトレーサビリティ(生産履歴)を誇るSA BIRTHとの共通項を探ります。
【廣川玉枝さん/SOMA DESIGN クリエイティブディレクター・デザイナー】
″第二の皮膚”から広がるデザインの可能性
東京・青山の骨董通り。個性的な店々が立ち並び、緑豊かな根津美術館にもほど近い一角にある「サヌア(SANUA)」のショップ。日本のファッション産業を支える香川県の川北縫製が立ち上げた、このカットソーブランドでクリエイティブディレクターをつとめるのが、ファッションデザイナーとして活躍している廣川玉枝さんです。
「子どもの頃から絵を描くのが好きで、高校では美術部に所属していました。人物を描くため雑誌を眺めているうちに、服飾デザイナーになれば自分が描いた絵を誰かに着てもらうことができるのではないかと思い、文化服装学院に進学したのです」
描くことから、立体的な“衣服”のデザインへ。その服を人が着ることで、自分の作品が身に着ける人の身体や人生の一部になっていく面白さに気づいていったという廣川さん。卒業後はイッセイ・ミヤケでキャリアを積みました。
「ニットのデザインを担当したことで、成型した平面のテキスタイルを、人が身に着けると立体になる面白さを知ったのをはじめ、さまざまな経験をさせていただきました。そんな中で少しずつ、自分のつくりたい服とはどんなものなのか、考えるようになったのです」。
2006年に独立し、SOMA DESIGNを設立。自身のファッションブランド「SOMARTA(ソマルタ)」を立ち上げ東京コレクションでデビューし、大きな反響を巻き起こします。ブランドの立ち上げ当時からつくり続けている代表作“スキンシリーズ”は、無縫製ニットの⼿法による、文字通り“第二の皮膚”のようなウェア。身に纏うアートとでも呼びたいクリエーションは世界的に高く評価され、2017年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)にも収蔵されました。
「無縫製の編み機にデザインをプログラミングして作っています。縫い目がないので肌に馴染み、身体にぴったりとフィットするもの、あるいは身体と衣服の空間を意識して、ゆとりのあるデザインにするなど、“スキンシリーズ”はまだまだ可能性を広げていくことができると思っています」
瀬戸内の自然に触れて生まれた、心地よい服
「SOMARTA」での活動が世界的に評価される中で、廣川玉枝さんは様々なジャンルでのコラボレーションにも携わってきました。ホテルや学校の制服、舞台衣裳、和装を取り入れたブランド、HONDAのアートプロジェクトでのロボットのデザイン、ヤマハ発動機の電動アシスト車椅子、アシックスと協業した東京オリンピックの表彰台で日本代表の選手が着用したジャケット……。そして2020年にスタートしたカットソーブランド「SANUA」では、クリエイティブディレクターとしてブランドの立ち上げから参加してきました。
「SANUAというブランドを立ち上げるにあたり、まず川北縫製の拠点である香川県を訪れました。豊かな山と海に囲まれた本当に魅力的な土地だったのが印象的で、そこで、色と素材をテーマに瀬戸内の自然との繋がりを服を通して伝え、地産型のものづくりを発信していくことができれば、と考えたのです」。
こうして地球から生まれる自然を身に纏うことをコンセプトに生まれた「SANUA」。ブランド名には、サンスクリット語の造語で『静寂の中に生命を響かせる』という意味が込められています。天然繊維をメインとしたカットソーのファーストコレクションは、瀬戸内の大海原を思わせるブルーのグラデーションが、着心地はもちろん目にも穏やかで心地よく、魅了させられます。
「SANUAでは自然から抽出した植物染料にわずかな化学染料を加えることで色の発色や定着を安定させる“ボタニカルダイ”という染色技法を採用しています。染色時には瀬戸内海で取れる塩を入れているのですが、これには日本独特の“清める”という儀式的な意味があり、瀬戸内の海と植物で染色しています」。
植物や鉱物など自然から生まれた原料を染料化した“ボタニカルダイ”は、地球に優しいエコロジカルな染色技法。自然界からもらった色はハッとするほど美しく、身に着ける人や目にした人に癒しの効果までも与えてくれます。東京・青山のショップには小さな縫製アトリエも併設。つくり手と着る人の距離が近づき、服の魅力や世界観をより深く届けるための工夫です。
「セカンドコレクションのテーマカラーは、瀬戸内に実るオリーブをイメージしたグリーン。こちらは果実から抽出した素材で染色しています。ファッションの世界では春夏、秋冬と年に二回のサイクルで新作を展開していくことがビジネスとして定着していますが、SANUAではシーズンに囚われないものづくりを目指していきたいと考えています。川北縫製のこだわりや職人さんたちの技術には、共感し尊敬できる点がたくさんあるので、その魅力、そして瀬戸内の自然の恵みやエネルギーを、服を通して伝えていきたいですね」
服もジュエリーも背景を知ることで、より愛しい存在に
香川県を訪れたことで「SANUA」の世界が広がったように、旅は廣川玉枝さんにとって大切なインスピレーションの源です。「スリランカやインドを旅した時には宝石のマーケットや歴史ある地元の宝飾店を訪ねました。地球の産物である天然石には、人を引きつける何かがありますね。カットして美しい宝石に仕上げられる前の原石のパワーにも惹かれます」
SABIRTHでは良質なダイヤモンド原石の産地であるサザンアフリカの鉱山での採掘から研磨、ジュエリーに仕立てられるまでの旅の行程を明確にし、身につける方のもとにお届けしています。
「服もジュエリーも、どんな所で生まれ、どんな思いでつくられ、どんな意味があるかを知ることで、身につける幸せがより深まるのではないでしょうか。最近はSDGsの浸透でものづくりのバックグラウンドにも注目を寄せられるようになってきましたが、ものが溢れている世の中で、その服にどんな背景や物語があるかを伝えていく必要を以前から感じていました。お客様が楽しみながら“ものづくり”のストーリーを知って購入することは、愛着を持って物を大切にする行為にもつながります」
ジャンルを超えてさまざまな人と交流し、自然や環境と共生する“長く愛し続けることのできる服”の可能性を模索し続けている廣川さん。
「香川県の川北縫製をはじめ、刺繍や染色、織り、編み……日本には数多くの素晴らしい技術を持つ職人さんや工房があります。私が服飾の仕事を始めた当初にお世話になったデザイナーの三宅一生さんは、いつか日本に国立のデザインミュージアムをつくりたいとおっしゃっていましたが、その夢を私たちの世代で実現することができたら。日本のデザインの未来を明るく照らしていくために、何か貢献していきたいと考えています」
ファッションというジャンルだけに囚われず、自由に、人と自然と寄り添いながら、廣川さんのデザインへの挑戦はまだまだ続きます。
サザンアフリカの大自然のパワーに圧倒されるヴィクトリアの滝をイメージした「ヴィクトリアフォールズ」。飛び散る水しぶきをペアシェイプダイヤモンドの煌めきに重ねました。
リング/VICTORIA FALLS〈Pt×ダイヤモンド〉¥467,500 ペンダント/VICTORIA FALLS〈Pt×ダイヤモンド〉¥363,000(価格は全て税込)
【PROFILE】
廣川玉枝/ TAMAE HIROKAWA
2006年SOMA DESIGNを設立。同時に「SOMARTA」を立ち上げ東京コレクションに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞を受賞。2020年「SANUA」のクリエイティブディレクターに就任。2021年に開催された東京オリンピックの表彰台ジャケットをアシックスと共同開発。展覧会や企業とのコラボレーションなどでも活躍。
http://www.somarta.jp
https://sanua.jp