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〜鉱山から私のもとに届くまで〜

Vol.12 水とともに育む、京菓子の伝統と未来

ものづくりの背景には、作り手の感性や技術とともに、産地へのこだわりやリスペクトの想いがあります。さまざまな分野で活躍する方々に輝きの秘密をうかがいながら、サザンアフリカのダイヤモンド鉱山で採掘された原石がダイヤモンドジュエリーとなるまでの確かなプロヴェナンス(来歴)とトレーサビリティ(生産履歴)を誇るSABIRTHとの共通項を探ります。

 

【Vol.12 吉村由依子さん/亀屋良長 女将 】

フランス料理の学びを経て、老舗京菓子店の女将に

京都の中心、四条堀川交差点のほど近くに店舗を構える「亀屋良長」。創業から220年以上を数える老舗の本店は、思いがけないほど明るくモダンな、心地よい空間でした。

八代目当主の吉村良和さんに嫁ぎ、店を切り盛りしているのが、吉村由依子さんです。
「小さい頃から料理が好きで、将来は食関係の仕事に就きたいと思っていました。料理人やパティシエは体力的に大変だからフードコーディネーターがいいかな、などと横文字に憧れながら大学の栄養科で学び、卒業後はパリの料理学校コルドンブルーにも通いました」

帰国後、良和さんと24歳で結婚。
「あんこってどうやって炊くのかすら知らずに嫁ぎましたが、京都府菓子工業組合の学校で京菓子の歴史や素材、作り方、製菓原理などを学ぶうちに、フランス料理と京菓子の共通点も見えてきた気がしました。それよりも店を手伝うようになって驚いたのは多額の負債です。新しいお客様を獲得できず売り上げが伸び悩んでいたのに加え、店をビルにした建築費も嵩んでいて……。経営を建て直すために何かできることはないか、若い層にむけて自分の感覚や、これまで学んできたフランス料理の知識を生かすことはできないかと考えました」。

しかし老舗で京菓子を手がけることにプライドを持っている職人には、吉村さんのアイデアはなかなか受け入れてもらうことはできませんでした。
「夫からも“変えへんことが伝統や”と言われてしまって……。それでもめげずに提案し続けて、ようやく“一回だけ”と製品化にこぎつけたのが、懐中おしるこだったのです」。
お湯をかけるだけでおしるこが出来上がる定番品を、桜やハートなどのモチーフが入った占い要素のある「おみくじしるこ宝入船」にアレンジしたところ、若い女性を中心に大ヒット。その後は少しずつ意見が取り入れられるようになり、新商品開発を続け、またパリでショコラティエをしていた藤田怜美さんとの共同開発による別ブランドを始めることにより、業績は回復していきました。

「新商品が話題になると、新しいことに取り組んでいる職場で働いてみたいという若い職人や女性の職人も増えていきました。もともと京都の和菓子業界では職人が自分の店をもつということが滅多になかったのですが、うちから独立した職人は、これまでに十人ほどになるでしょうか。また社内に“かめや和菓子部”という名の若手スタッフの勉強会組織をつくって、二十四節季ごとにテーマを設け、グループごとに季節に合った新しいお菓子を考える場も設けています。家族だけで経営する小さな店でもなく全国展開の大規模商店でもない程よい規模だからこそできることを、一つ一つ形にしていけたらいいですね」。

豊かに沸き出る「醒ヶ井水」に支えられて

亀屋良長の本店の傍らには、「醒ヶ井(さめがい)水」の名で知られる名水がこんこんと沸く井戸があります。
「そもそも初代の吉村文平は、良質な水を求めてここ、四条醒ヶ井に亀屋良長の店を構え、創業したと伝えられています。以来、私たちにとってこの名水は菓子作りに欠かせない大切なもの。小豆を洗うのも、炊くのも、この水でなければ亀屋良長の味にはなりません」。

取材の合間にも近隣の方がペットボトル持参で「醒ヶ井水」を汲みに訪れる姿が次々に。老舗菓子店だけでなく、地域の生活までを支えてきた名水です。
「クセや主張のない素直な水ですが、水の違いが餡に出ます。普通の水で炊くのとは全く味が違いますね。実はかつて地下鉄工事の影響で、数十年間井戸の水が枯れてしまい、やむなく水道水を使っていたことがありました。その時はお客様から“菓子の味が変わった”とご指摘を受け、30年前に先代が井戸を復活させようと、より深く掘って再び湧き出た「醒ヶ井水」を使えるようになりました。我が家ではご飯を炊くのにも、この水を使っているんですよ」。

亀屋良長が店舗を構えるこの場所こそが産地である水に対して、小豆や砂糖などの素材は、より良質で菓子に適した産地のものを厳選。しかしその調達には、難しい一面もあると吉村さんは語ります。
「小豆や砂糖などの産地は、それぞれこだわりをもって選んでいますが、残念なことにお金を払えば良い素材が手に入るという時代ではなくなってきています。特に丹波産の大納言小豆は生産者の方の高齢化もあり、今後、どうすれば必要な量を調達することができるのか考えていかなければならない岐路に立たされていると思います。小豆は同じ株で育ってもサヤの成熟度にバラ付きがあるので、熟練の生産者さんは乾いたサヤを見極めて丁寧に手摘みで収穫していきます。作物には国から補助が出るものと出ないものがありますが、残念ながら小豆は補助の対象にもなっていません。生産者さんが作ってくださるからこそ成り立つ菓子づくりですから、しっかりと考えていかなければならない問題です」

京菓子の伝統もジュエリーも、受け継ぎ、未来へと渡すもの

吉村由依子さんが手がけた中でも、特に大きな話題を呼びロングセラーとなっているの製品が「スライスようかん」です。
「ある朝、息子にトーストしたパンに餡を塗ってあげていたのでのですが、冷えて固くなった餡は塗りにくい。スライスチーズのように羊羹を薄くスライスして食パンに乗せて焼いてみたらいいのでは、と思ったのがきっかけです」。

羊羹の厚みや小豆の味を調整して試作を重ね、上に載せるバターも羊羹製に仕立てた「スライスようかん」は、創業当初からの銘菓「烏羽玉」を超えて、今や亀屋良長の売り上げナンバーワンに。
「コーヒーにもお茶にももちろん合いますが、“醒ヶ井水”の白湯と合わせて召し上がっていただくと、それぞれの美味しさがより際立つように思います」。

亀屋良長の菓子づくりにとって大地の恵みともいえる「醒ヶ井水」が大切な宝物であるように、ダイヤモンドもまた、大地の奥深くから生み出される宝物。サバースでは品質の高いサザンアフリカ産のダイヤモンドにこだわり、鉱山での原石の採掘から研磨、ジュエリーに仕立てられてお客様のもとに届くまでのプロヴェナンス(来歴)とトレーサビリティ(生産履歴)を明確にしながら、ものづくりに取り組んでいます。

「仕事の場ではなかなかジュエリーをつける機会に恵まれないのですが、久しぶりにダイヤモンドを身につけて気持ちが上がりました。きものとのコーディネートでも、自分の手がこんなにも綺麗に見えるのだと感激しましたし、身に着けることで馴染んでいくものですので、もっと毎日つけたいな、と思いました」。

婚約の際にはお義母様のルビーのリングをリフォームしたものを贈られたという吉村さん。
「亀屋良長では“醒ヶ井水”とともに代々受け継がれてきた菓子帳や木型も財産ですが、夫と義母から贈られた指輪も、子どもたちやそのお嫁さんへと受け継げたらいいですね」。

名水をはじめ受け継がれてきた伝統を大切にしながら、時代にしなやかに寄り添い、アイデアを発信していく。吉村由依子さんが切り拓く菓子の世界には、まだまだ素敵な可能性がありそうです。

 

南アフリカの首都プレトリアに咲く世界三大花木の一つジャガランダをモチーフにデザイン。アフリカ大陸最南端に位置する希望峰(グッドホープ)のように、身に着ける人の未来を輝かせるコレクションです。

イヤリング/GOOD HOPE〈Pt×ダイヤモンド〉¥880,000
ペンダント/GOOD HOPE〈Pt×ダイヤモンド〉¥1,298,000
リング(上) /GOOD HOPE〈Pt×ダイヤモンド〉¥1,672,000
リング(下)/GOOD HOPE〈Pt×ダイヤモンド〉¥478,500

【PROFILE】
吉村由依子/YUIKO YOSHIMURA

1999年、同志社女子大学 生活科学部 食物栄養科学科卒業。2000年、 Le Cordon Bleuパリ校 料理ディプロム取得。レストランで研修後、帰国。2001年、「亀屋良長」の八代目との結婚を機に伝統的な和菓子の世界に入り、商品企画開発に携わるように。GI値が低めの天然甘味料を使用した京菓子ブランド「吉村和菓子店」も手がけている。

https://kameya-yoshinaga.com